1990年代。経済発展のスピードは想像以上に早く、天然ガスの埋蔵量が50数年で枯渇してしまうという勢いに、危機感を抱く声は世界的にも大きくなっていた。パーパスはガス機器メーカーとして、また総合エネルギー企業として、環境に配慮した製品開発にいち早く動き出した。国内で初めてのコンデンシング給湯器「エコジョーズ」を販売し、海外に向けて展開していったストーリーを、芳野茂、加藤賢司の2人に聞いた。

次世代の高効率給湯器を目指して

少ないガスの使用量でより効率のいい高効率給湯器。それがこれからの未来に必要とされる新たな形であることは、誰の目にも明らかだった。90年代中頃からすでにパーパスでは技術部門でプロジェクトが立ち上がっていた。技術本部住設設計開発部の芳野茂は、早い段階でその中に加わり、開発に携わってきた一人だ。
「従来、ガス給湯器は銅製の熱交換器を使っていて、ガスを燃焼する際には水蒸気が発生します。そこに含まれる熱(潜熱)を空気中に捨てるのではなく回収してお湯を作る。それが高効率給湯器の仕組みです。一番最初に取り組んだのは、潜熱を回収するためのステンレス製の2次熱交換器の開発でした」
これまでの性能を超える次世代の給湯器を目指して、従来83%だった熱効率を、95%に目標を定めた。

熱効率、コンパクト化をクリアしたエコジョーズ

お客様に対してよりよい品質と適正な価格を。そして社内的には組み立て量産性、優れた施工性を。完成を目指し、設計や製作担当者は試行錯誤を重ねた。「製作部とは何度も試作をし、数えきれないほど試験と評価を繰り返した」と芳野は言う。
熱効率に加え、超えなければならない問題は物理的な「大きさ」だった。2次熱交換器を搭載することで、必然的に製品は大きくなり、かかるコストも上がる。日本の住宅、特にマンションなどの集合住宅では、給湯器の寸法には制限があり、性能もさることながら小型で薄型、軽量な給湯器であることが求められた。安全で安心して使えることは大前提として、よりコンパクトに、しかも低コストに。一つの成果が表れ、発売の日の目を見たのは2000年。それが、日本で初めて販売された「エコジョーズ」である。

「どこよりも売れない」からの逆転

国内発売から3年後の2003年、エコジョーズは海を渡った。「日本のコンデンシング給湯器を一番最初にアメリカに持って行ったのはわれわれだった。そしてどこよりも売れずに失敗したのも当社でした」と話すのは、海外設計開発部の加藤賢司だ。
日本の倍以上ある市場へ参入したものの、当時は数百台も作らずに終わるほどまったく売れなかった。その要因は「文化と考え方の違い」だった。
「アメリカはガス代が安いので、値段の高い高効率給湯器ではいつまで経ってもペイアウトできない。それにアメリカの人は風呂に入らない。風呂給湯器を売ろうとしても売れるわけがないんです」
給湯器の使われ方を見直し、製品の方向性を見直した。9割がた家の中に給湯器を置くアメリカでは、煙突施工が必須だ。通常、煙突は鉄やステンレス製だが、コンデンシング給湯器は熱効率がいいので排気温度が低く、樹脂煙突が使える。日本では認められていないが、ヨーロッパ製のものはすでに販売されていた。「樹脂煙突対応の製品を作ろう」と開発されたのが2代目のコンデンシング給湯器だ。
「今でこそ熱効率95%になっていますが、当時はまだ90%程度。排気温度が下がらない状態だと樹脂煙突が溶けるので、とにかく熱効率を上げるために試作を続けました」
樹脂煙突を備え、コストを抑えたコンデンシング給湯器は飛躍的に売り上げを伸ばし、今の海外市場へつながる足がかりとなった。
「アメリカでパーパスの商品を販売するA.O.スミス・コーポレーションの副社長から言葉をいただいたんです。とにかく不良が少なくて、感謝している、開発チームによろしく伝えてほしい。そう言われたときには本当にうれしかったですね」(加藤)

文化と環境の違いを超え、未来の世界エネルギーを見つめる

日本では改良を重ねるごとに軽量化を追求していったが、逆にアメリカではコンパクトなものは「手が入らない、サービスできない、もっと大きくしてくれ」と注文が入った。お国柄と環境の違いであり、アメリカだけでなく、世界各国へと展開させていく際に不可欠な新しい視点でもあった。
「例えば、日本はタテのラインを基調にした控えめなデザイン。一方アメリカは電子機制御を搭載した最新式のテクノロジーを自慢できるようなパッと目立つデザイン。正反対のコンセプトが興味深く、国内の給湯器も以前にも増してデザイン性の高い、建物と調和した給湯器というコンセプトに近づけようとしています」(芳野)
エコジョーズ発売から20年。高効率給湯器はますます進化し、改善は続けられている。
芳野は「高効率の給湯器とそうでない給湯器が世の中にはまだたくさんあります。より環境に優しいものへ、という声を、私たちは届けていく命題を持っています」と話す。
加藤は言う。「環境にかかる負荷を考えると、リサイクル、リユースといったことも目指しながら物づくりをしていかなければならない時代。また、国によってエネルギーの考え方もさまざまです。ガスだけにこだわらず、エネルギー全体を見つめる企業でありたい」

芳野 茂YOSHINO SHIGERU

パーパス株式会社
技術本部 住設設計開発部 民生設計担当課

加藤 賢司KATO KENJI

パーパス株式会社
海外設計開発部 機器開発